両親などが亡くなって相続が発生した後、相続人が金融機関で手続きをする際には、亡くなった被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本・除籍謄本及び相続人の戸籍謄本等を全部揃えるように言われることが通常です。
戸籍謄本等には、出生から結婚、離婚、子の誕生・死亡がすべて記載されているため、被相続人に対して誰が相続人になるかを確認することができるためです。
金融機関としては、相続人全員の合意を得て手続きを進めないと後に紛争になるため、戸籍謄本等の提出を求めているのです。
亡くなった被相続人が離婚・再婚し、前妻と後妻の間にそれぞれ子をもうけているケースや、被相続人の子が先に亡くなって、孫が代襲相続人になっているケースなどは、取得しなければならない戸籍謄本等の通数も多くなり、また戸籍の転籍を繰り返している場合には遠方の役所から取り付ける必要があるため、手間も時間もお金も嵩むことが少なくありません。
戸籍謄本等は手続きが終了すると返却されることが一般的であるものの、複数の機関で同時に手続きを進めるには何通も取得する必要があり、また民間の金融機関では返却に応じないこともあるため、相続人にとってはこの戸籍謄本等の提出が大変な手間となっていました。
そこで、国はこうした手続きの簡素化を図るために2017年から、「法定相続情報証明制度」を開始しています。
同制度は、登記所(法務局)に戸籍謄本等一式を提出し、併せて相続関係を一覧に表した図(家系図のようなもので「法定相続情報一覧図」といいます)を作成して提出すれば、登記官がその一覧図に「ここに記載されている人物が相続人で間違いありません」という認証をして相続関係を証明してくれるというものです。
一覧図の写しは、無料で何通でも交付してくれます。(※申出日の翌年から数えて5年間は書類が保存されておりますので、その期間であれば、再交付可能です。ただし、再交付を申請できるのは、一覧図の申出をした人に限られます。)
したがってその後の相続手続は、法定相続情報一覧図の写しを提出することで、戸籍謄本等一式を何度も出し直す必要がなくなります。この一覧図は相続税の申告や遺族年金の手続きでも利用することができるので、大変便利です。
具体例を見てみましょう
被相続人がA、B、Cの3つの金融機関に口座を持っていた場合を考えてみます。
法定相続情報一覧図を作成した場合、3つ同時に手続きを進めることができます。
法定相続情報一覧図を作成しなかった場合は、1つの金融機関で戸籍謄本等の確認が終わり、原本一式が返却された後に、別の金融機関の手続きをすることになります。例えばA銀行が終わったらB銀行の手続き、B銀行が終わったらC銀行の手続き、というふうに繰り返します。
法定相続情報一覧図を作成せず、同時に手続きを進めるためには、同じ戸籍を(3つの金融機関分それぞれ)3通ずつ取得する必要があり、戸籍謄本等の取得費用が3倍かかってしまいます。
法定相続情報一覧図を作成できないケース
このように便利な法定相続情報証明制度ですが、相続人に外国籍の方が含まれる場合には利用することができません。外国籍の方は、戸籍に記載されることがないためです。日本に帰化された方が被相続人となった場合も、出生時からの戸籍がないので、利用できません。
また、配偶者と第1順位の相続人(子や孫)が相続放棄をして、第2順位(両親、祖父母)、第3順位(兄弟姉妹)の相続人が相続する場合も、同制度は使うことができません。(相続の順位については上の図をご覧ください。)
法務局では相続放棄の事実を確認できないからというのが理由のようですが、裁判所で相続放棄の証明を取得することはできるので、制度の改善が望まれます。
ちなみに、事実婚(内縁関係)の場合は、内縁の妻(夫)に相続権はありません。現行法下では、相続人は法律婚の配偶者に限られているためです。したがって、事実婚の方で、内縁の配偶者に財産を残したい場合は、遺言による遺贈か生前贈与などの方法をご検討ください。
法定相続情報証明制度の詳細については、法務省の下記サイトをご覧ください。
http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000013.html
ご自身でも手続き可能ですが、難しそうだなとお感じになった場合には、気軽に当事務所へご相談ください。相続に関するご相談は、初回1時間無料となっております。